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東京地方裁判所 昭和29年(ワ)8690号 判決 1957年3月19日

東京都世田谷区船橋町一三八番地

原告

江崎隆之

右訴訟代理人弁護士

三矢正革

同都新宿区角筈一丁目七四二番地

被告

内藤徳幸

右訴訟代理人弁護士

河内守

右当事者間の昭和二九年(ワ)第八六九〇号家屋賃貸借の一部不存在確認並に賃料改訂請求事件について次の通り判決する。

主文

一、東京都新宿区角筈一丁目七四二番地所在(家屋番号同町七四二番ノ二)木造瓦葺二階建店舗兼居宅一棟建坪十一坪三合三勺二階十坪五合の建物の内二階十坪五合について、原被告間に賃貸借関係の存在しないことを確定する。

二、訴訟費用は被告の負担とする。

事実

第一、請求の趣旨

主文第一、二項同旨の判決を求める。

第二、請求の趣旨に対する答弁

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

旨の判決を求める。

第三、請求の原因

一、主文第一項記載の家屋は原告の所有であるが、原告は右家屋の内一階店舗二坪二合五勺及び二階十坪五合を、昭和二十五年四月十四日、期間十カ年賃料一カ月金五千円の約で被告に賃貸し、被告はその後右二階全部を訴外辛凞及び高山和子に転貸した。

二、ところが昭和二十九年三月九日午前一時三十分頃同二階から発火し、二階全部を焼失したので、前記原被告間の賃貸借契約中右二階の部分については、賃貸借の目的物の滅失により効力を失い、原被告間の賃貸借関係は右の範囲で不存在となつた。

三、昭和二十九年四月中、前記転借人であつた辛凞外一名が、原、被告に無断で右二階の新築に着手したので、原告は直ちに辛凞等に対し工事中止の仮処分をしたが、辛凞等の申入により完成の上は原告の所有となす条件でその新築を承諾し、原告と辛凞等の間に右新築後の二階の部分については新に賃貸借契約を結ぶに至つた。しかるに被告は新築した二階は旧二階建物を補修したものに過ぎず、新旧二階は同一のものであるから前示賃貸借契約は新築の二階に対して存続すると主張するので、原告は新築した二階については被告との間に賃貸借関係の存しないことの確認を求める。

第四、請求の原因に対する答弁

請求原因一の事実中、転借人の氏名を除いてその他はこれを認める。

同二の事実中、本件家屋の二階全部が焼失した事実のみを認めその他は争う。

同三の事実中、本件家屋二階の転借人辛凞が二階を建築した事実はこれを認める。被告は辛凞をして本件家屋二階の焼失破損の部分の修理をなさしめたもので、本件家屋二階の部分についても、依然前記賃貸借関係は存続する。

第五、証拠方法(省略)

理由

一、原、被告間に本件家屋のうち一階二坪二合五勺及び焼失前の二階十坪五合について賃貸借契約の締結されていたことは当事者間に争がない。

二、右の如く本件賃貸借契約は本件家屋の一部について成立したものであり、証拠によれば本件家屋は新宿の荻窪行都電停留場の南側に位置する商業地にあつて営業に適する為被告は賃借した部分の中更に二階を予め原告の承諾を得た上で第三者に転貸し、転借人は二階で中華料理店を経営し、本件家屋の一階と二階とは経営者の異る別個の店舗となつていたことが認められるから、他に特別の事情の認められない本件では右賃貸借の目的物である本件家屋の一階の一部と二階は各々独立した経済上の効用を有していたものと認めるのが相当である。更に証拠によれば、昭和二十九年三月九日午前一時三十分頃発生した火災により、本件家屋の二階は、モルタル塗の東北西三方外壁は原型をとどめていたが、南側の外壁下見板は焼失し、柱及び間柱等は一様に炭火し、天井板は焼失して屋根瓦の一部は落下するに至つたことが認められ、右破損状況から見て本件家屋の二階はモルタル塗の三方外壁を除き火災前の建物資材は殆ど使用に堪えないまでに焼失したもので建物のとしての効用は滅失するに至つたものと判断される。

前記の如く被告が賃借した本社家屋の一階と二階とは各々独立した経済上の効用を有し各別の目的をもつて使用されていたのであるから、このような場合二階部分のみ焼失してしまえば右賃貸借契約中焼失した二階の部分については目的物の滅失により効力を失うに至つたものというべきである。

三、昭和二十九年四月中に本件家屋の二階が焼失前の転借人辛凞によつて建築され、その所有権が原告にあることは当事者間に争がない。

被告は辛凞をして右二階の修理をなさしめたものであると主張するが、被告が右建築をなさしめたという証拠は何もないし、仮にそうであつたとしても二、に認定した通り本件家屋の二階は既に火災によつて滅失したのであるから、現在新築された二階は焼失前の二階とは別個の新な建物の一部であつて、焼失前の二階を補修修理したもの換言すれば焼失前の二階と同一性を有するものと見ることはできない。従つて二階が焼失したために、その範囲において一旦効力を失つた賃貸借契約は、その後再び二階が新築されたからといつて当然効力を復活するものではない。原被告間に新築された本件家屋の二階について新に賃貸借契約が締結されていないことは当事者の主張から明かであるから、新築された本件家屋の二階について原被告間には賃貸借関係は存在しない。

四、しかるに被告は依然本件二階についても賃貸借関係が存在するとこれを争つているから原告に確認の利益があると認めて原告の請求を認容し、訴訟費用の負担につき民訴第八九条を適用して主文の通り判決する。

東京地方裁判所民事第二四部

裁判官 三渕嘉子

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